柔術ノート
附録 三

いまの柔術で使われている技

3か月目の白帯が最初に足す3つ

第一〜六章は道場で教わった技の記録。ここには、いまの柔術(競技・道場の両方)で標準になっていて、かつ白帯のうちに覚えて損がない技を3つだけ足す。選ぶ基準は、体格や筋力に頼らないこと、既に習った技とつながること、怪我のリスクが低いこと。どれも各章の技と同じ型(入口と出口→相手役に起きること→3語→見ずに確認)で書く。

013つの位置づけ

ニーシールドは第四章ハーフガードの「守り」を強くする。ボディロックパスは第二章ガードブレイクの先にある「越える」を埋める。テクニカルスタンドアップは全ての技の下にある基礎ムーブ。3つとも、いま持っている技の隙間を埋めるもので、新しい体系を増やすものではない。

ニーシールド
第四章の発展 ハーフガードで「胸と胸をつけない」を骨で実現する
ボディロックパス
第二章の続き ガードを割った後、体重で越える。速さがいらない
テクニカルスタンドアップ
基礎ムーブ スイープの仕上げ・ガードの立て直し・距離を取る、の全部で使う

出典は本文末。技の解説は各道場・各選手で細部が異なるので、道場で教わった形を優先する。

02一、ニーシールド・ハーフガード

第四章のハーフガードに「上の膝を相手の胸に立てる」を足したもの。相手の体重が自分の胸に乗らなくなるので、押さえ込まれにくく、そこから攻めに転じられる。いまの柔術で最も多く使われるガードの一つで、体が硬い人・小さい人でも先に作りやすい。

入口と出口

入口
サイドやハーフで抑え込まれそうになり、相手の片足を絡めた。両肩がマットに着きかけている
出口
上の膝が相手の胸に刺さり、下の足は相手の足を絡め、両手のフレームで距離が空いている。相手は体重を乗せられない

動画は、自分の手足ではなく「相手役に何が起きるか」だけを追って見る。

▶ ニーシールドハーフガードの使い方(DEEP HALF CLUB)YouTubeで開く

相手役に起きること

  1. 押さえ込もうと体重を乗せてくる
  2. 膝が胸に刺さり、体重が乗せられなくなる
  3. 距離が空いて、前に潰れるか横に回るかの二択に追い込まれる

3語の合図

絡む/膝を立てる/押し返す

自分の番の前に目を閉じて唱え、頭の中で一度だけ再生する。

見ずに確認(練習後・翌日に、思い出してから開く)
  1. 上の膝はどこに置く?相手の胸か肩に向けて、すねが相手の胴体を横切るように。膝の位置が下がると押しつぶされる
  2. 両手は何をしている?一方は相手の肩を止めるフレーム、もう一方は相手の手首をC字で追いかける。腕の力ではなく骨で支える
  3. 潰されてフレームが崩れたら?すぐに作り直す(リフレーム)。一枚の壁に頼らず、何枚も壁を重ねる

手順

  1. ハーフガードで相手の片足を絡む。下の足のかかとを相手のふくらはぎ側に引っかける(足首は深くロックしない。第四章と同じ)
  2. 上の膝を曲げて、すねを相手の胸か肩の下に差し込む。膝は相手の胸を向く
  3. 肩側の手は相手の肩か首を止めるフレーム。もう一方の手で相手の手首を持つ(C字グリップ)
  4. 横向き(半身)を保ち、胸と胸をつけない。第四章の「時計を見る」と同じ
  5. 相手が前に潰そうとしたら、膝で押し返して距離を戻す。相手が横に回ろうとしたら、その動きに合わせて膝の向きを変える

ここからの攻め(3つだけ覚える)

  • シザースイープ: 遠い側の相手の袖とズボンを持ち、上の膝で押しながら下の足で相手の足を払う。相手が横に倒れる
  • バックテイク: 相手の袖を引いて角度を作り、脇の下をくぐって背後へ。第四章のアンダーフック→バックテイクと同じ出口
  • アンダーフックへの切替: 相手がニーシールドを潰しにきたら、膝を抜いて脇を差し、第四章の3択(潜り・バック・ダブルレッグ)へつなぐ

なぜ効くか

ハーフガードの弱点は「胸と胸をつけられて押さえ込まれる」こと(第四章の注意)。膝を一枚挟むだけで、相手の体重は膝の骨に乗り、自分の胸には乗らない。筋力ではなく骨で支えるので、体重差があっても持つ。フレームの原則そのもので、第四章の「半身フレーム」の発展形。

注意

  • 膝を立てただけで満足しない。膝は「押し返す」ためにあり、止めたままだと相手に乗り越えられる
  • 足首を深くロックしない(第四章と同じ。怪我防止)
  • 下の足の絡みが外れると、ただの「膝を立てているだけ」になる。まず絡み、次に膝

03二、ボディロックパス

相手のガードの中から、相手の腰の後ろで両手を組んで(ボディロック)抱えたまま、体重で押しつぶしてパスする方法。速さや器用さではなく「重さと密着」で通すので、初心者が最初に覚える上からの攻めとして、いまの柔術で最も推奨されるパスの一つ。第二章のガードブレイク(割る)の先にある「越える」の技術。

入口と出口

入口
相手のオープンガード、またはハーフガードの中。相手の背中がマットから浮いている(座っている・半身になっている)
出口
相手の膝のラインを越え、胸と胸を合わせてサイドコントロールで抑えている

動画は、自分の手足ではなく「相手役に何が起きるか」だけを追って見る。

▶ クローズドガードへのボディロックパスガード(新・柔術日記Channel)YouTubeで開く

相手役に起きること

  1. 背中の後ろで手を組まれ、腰を抱えられる
  2. 体重で前に潰され、背中がマットに着く
  3. 膝のラインを越えられ、胸を合わせて抑えられる

3語の合図

組む/潰す/越える

自分の番の前に目を閉じて唱え、頭の中で一度だけ再生する。

見ずに確認(練習後・翌日に、思い出してから開く)
  1. 手を組むとき、相手の背中はどうなっている必要がある?浮いている。背中がべったり着いていると腰の後ろに手が入らない
  2. 手の組み方は?S字グリップなど。相手の大きさと自分の腕の長さで変える
  3. 膝のラインを越えるとき、足はどう動かす?相手を押し下げながら、パスする側の足を相手の足の上に運ぶ。ハーフガードになることが多いので、そこから自由な足で相手の足を踏んで、挟まれた足を抜く

手順(5段階)

  1. 背中を浮かせる: 相手が座っている・半身なら、そのまま。寝ている相手には腰の後ろに手が入らないので、まず起こすか横を向かせる
  2. 手を組む: 相手の腰の後ろで両手を組む(S字グリップ)。肘を締め、胸を相手に密着させる
  3. 膝のラインを越える: 体重で相手を押し下げ、パスする側の足を相手の足の上に運ぶ。多くの場合ここでハーフガードの形になる
  4. 足を抜く: 自由な足で相手の足を踏み、挟まれた足を引き抜く。第四章のハーフガードブレイクの足抜きと同じ
  5. 抑える: 足をワイパーのように動かしてサイドコントロールへ。胸を合わせ、腰を落とす

なぜ効くか

ガードパスは「速さで抜ける」か「圧で潰す」かのどちらか。ボディロックは後者で、両手で腰を抱えた瞬間に相手は腰を切れなくなる(エビができない)。相手の逃げ道が消えるので、あとは体重をかけ続けるだけで、相手のほうが先に苦しくなってガードを手放す。初心者が速さで抜くのは難しいが、体重をかけ続けることは今日からできる。

注意

  • 手を組んだあとに腰を上げない。腰が上がると圧が抜け、相手が動けるようになる
  • 相手の背中が着いたままでは組めない。まず「背中を浮かせる」から
  • 足を抜くときに焦らない。第四章の「ぬるい圧」「焦り」の注意と同じ

04三、テクニカルスタンドアップ

座った状態・寝た状態から、相手に足を取られたり倒されたりせずに安全に立ち上がる基本動作。相手はいない練習でも身につく「基礎ムーブ」で、スイープの仕上げ、ガードの立て直し、距離を取るときなど、あらゆる場面で使う。いまの柔術は「下から立ち上がって上を取る(レッスルアップ)」が主流になっており、その土台がこれ。

入口と出口

入口
座っている、または倒れて片手をついている。相手は正面にいる
出口
片手と反対の足で支えたまま、腰を浮かせて後ろ足を引き、広い足幅で立っている。相手に背中を見せていない

動画は、自分の手足ではなく「相手役に何が起きるか」だけを追って見る。

▶ テクニカルスタンドアップのやり方(Ritchie Yip)YouTubeで開く

相手役に起きること

  1. 自分の足を取れる位置から、蹴り足で距離を取られる
  2. 腰が浮き、後ろ足が引かれて、飛び込む隙がなくなる
  3. 目の前に広い足幅で立たれ、正面から組み合う形に戻される

3語の合図

手と逆足/腰を浮かす/足を引く

自分の番の前に目を閉じて唱え、頭の中で一度だけ再生する。

見ずに確認(練習後・翌日に、思い出してから開く)
  1. 支えるのは、どちらの手とどちらの足?対角。右手をついたら左足で支える(右手と右足だと腰が動かない)
  2. 立つ前に足を揃える?揃えない。揃えると押されて倒れる。広い足幅のまま立つ
  3. 相手の圧が重くて立てないときは?3/4版(先に膝をつく)か、半分版(手ではなく肘をつく)で段階的に。無理に一発で立たない

手順(基本形)

  1. 座った状態で、片手(例: 右手)を斜め後ろのマットにつく。反対の足(左足)を立て、足裏をマットにつける
  2. 前の足(右足)は相手に向けて伸ばし、相手が飛び込んできたら蹴って距離を取れる位置に置く
  3. 右手と左足で体を支え、腰を浮かせる。このとき腹をマット側に向けるように体をひねる
  4. 浮いた腰の下を通して、右足を後ろへ大きく引く。引いた足を着いたら広い足幅になっている
  5. ついていた手を離し、上体を起こして立つ。相手に正対したまま

4つのバリエーション

  • 基本形: 上の手順。腰を浮かせて足を引く
  • 3/4: 先に膝をついてから立つ。相手の体重を受けているときに
  • 半分: 手ではなく肘をついて行う。相手の圧が強いときに
  • 逆: 立った状態から座った状態へ戻る。スクランブルで相手の下に潜るときに

なぜ効くか

普通に立ち上がると、一瞬「両手両足がマットに着いた四つん這い」を通り、そこで足を取られるか背中を取られる。テクニカルスタンドアップは対角の手足で支えるので、腰が自由に動き、常に片足で蹴れる。相手から見ると「飛び込める瞬間」が最後まで来ない。

注意

  • 足を揃えて立たない(押されて倒れる)
  • 手と同じ側の足で支えない(腰が固まって動けない)
  • 相手から目を離さない。第四章「目を瞑らない」と同じ

05参考にした解説

  1. Evolve MMA. BJJ 101: Knee Shield Half Guard. evolve-mma.com
  2. BJJ Fanatics. The 5 Stages of the Body Lock Pass(Lachlan Giles の教則の解説). bjjfanatics.com
  3. Grapplearts. The Four Variations of the BJJ Technical Standup. grapplearts.com
  4. Evolve MMA. Improving Your BJJ With Wrestle-Ups. evolve-mma.com