柔術ノート
附録 七

技をつなげる・反射で返す

組み合わせると崩れる理由と、体が先に出るようにする練習の順番

1つずつならできる技が、2つつなげると止まる。相手が動いた瞬間に何も出ない。このページは、その理由と、道場と家でやる練習の順番を1枚にまとめたもの。見る・覚える・思い出すの基本は附録二、スパーの設定と相手の読み方は附録五にあり、ここではそれを「つなげる」「反射で返す」の順番に並べ直して、足りない部分を足した。

01先に結論

1つずつならできる技が、つなげた途端に止まる。相手が動いた瞬間に何も出ない。この2つは同じところから来ている。どの技もまだ「手順を頭で確かめながら動く」段階にあり、2つ目を足した時点で頭の容量を超える。直し方は3つ。技の全体ではなくつなぎ目だけを練習する。相手の反応を1択→2択→ランダムと段階的に増やす。家では「相手の合図→自分の返し」を頭の中で再生し、日を空けて思い出す。

効果の確からしさ

頭で同時に扱えるのは4つ前後
強 短期記憶の容量研究の総説(Cowan 2001)。手順3つの技を2つつなげると6つになり、あふれる
連続動作は塊にまとまり、境目で止まる
強(実験室) ボタン押しの連続課題で、練習するほど動作がいくつかの塊にまとまり、塊と塊の間に長い間が残った(Sakai ら 2003)。柔術での直接の研究はない
依存し合う動作は切らずに練習する
中 部品同士が強く依存する課題は、全体で練習した方が効率がよい(Naylor と Briggs 1963)。20研究のメタ分析もこの考え方をおおむね支持したが、研究数は少ない(Fontana ら 2009)
選択肢を減らすと反応が速い
強 選択肢の数が増えるほど反応時間はほぼ対数で伸びる(Hick 1952)。実験心理学で最も再現性の高い知見の一つ
固めてから混ぜる
中 固めて練習するとその場の出来が良く、混ぜて練習すると後日の保持と応用が良い(Shea と Morgan 1979)。実際のスポーツ場面では効果が小さくなる(附録二 第四節)
今は手順に注意を向けてよい
中 初心者は一歩ずつ手順に注意を向けた方が上手くでき、熟練者の得意な動きは同じことをすると崩れた(Beilock ら 2002)
手順を言葉で抱えすぎない
中 規則を言葉で多く持って覚えた人ほど、プレッシャー下で崩れた(Masters 1992)。たとえ(アナロジー)で覚えた人は崩れにくかった(Liao と Masters 2001)
相手の動きを読む力
強(差)/中(訓練) 熟練者は相手の手がかりを早く正確に拾う(Mann ら 2007、42研究のメタ分析)。映像と指導で予測を訓練すると、実験室でもコートでも予測が上がった(Williams ら 2002、テニス)
頭の中での練習
中 イメージ練習には中程度の効果があり、手順や判断を含む課題ほど大きい(Driskell ら 1994)。体の練習の代わりではなく上乗せ

02一、なぜつなげると崩れるのか

技が下手だから崩れるのではない。1つの技を動かすだけで頭がいっぱいになっていて、2つ目を載せる場所がない。技と技の境目は、まだ一度も練習されていない。

技はまだ「考えながら動く段階」にある

運動の習得は3段階で進む(Fitts と Posner 1967)。今の技の多くは一段目か二段目にある。段階によって、やるべき練習が違う。

段階頭の状態柔術ではやる練習
認知段階手順を1つずつ言葉で確かめながら動く。間違いが多い「手首を取って、胸を合わせて…」と唱えながら動く1つの技を形が出るまで固める
連合段階手順がまとまり始め、間違いが減る3語の合図だけで最後まで通せるつなぎ目を練習する(第二節)
自動段階考えなくても出る。注意を他へ回せる相手を見ながら、技が勝手に出る相手の反応を混ぜる(第三節)

頭で同時に扱えるのは4つ前後

考えながら覚えておける量(作業記憶)は、およそ4つ(Cowan 2001)。認知段階の技は、それぞれが手順3〜4個分の場所を取る。2つつなげれば6〜8個になり、そこで止まる。附録二で技を3語の合図にまとめたのは、1つの技が取る場所を減らすため。

つなぎ目は、別の技として練習がいる

連続した動作は、練習するうちに脳の中でいくつかの塊にまとまる。塊の中は速くなるが、塊と塊の間には長い間が残る。練習した順番を塊ごと入れ替えると速く正確に動けたのに、塊を壊すように切り分けると遅く不正確になった(Sakai ら 2003)。A と B を別々に練習しても、「A の終わり→B の始まり」はどちらの塊にも入っていない。止まるのはそこ。

道場の言葉とのつながり

  • 「考えすぎ」「頭の中でこねない」。手順を言葉で多く抱えるほど、緊張したときに崩れる(Masters 1992)
  • ただし今は、手順に注意を向けてよい段階。初心者は一歩ずつ確かめた方が上手くでき、崩れるのは熟練者の得意な動きの方だった(Beilock ら 2002)。確かめるのは3語までにする
  • 「弓を引く」「輪っか」「歯車」のようなたとえで覚える。たとえで覚えた人は、別の作業を同時にしても、ストレスをかけても崩れにくかった(Liao と Masters 2001)
  • 稽古の心得の「一挙動(動作を分割しない)」は、第二節の「つなぎ目を切らない」と同じ方向

03二、つなぎ目だけを練習する

組み合わせを最初から最後まで何周も回すより、「A の最後の形→B の最初の形」だけを切り出して繰り返す。つながったら1手ずつ広げる。

やり方

  1. つなげたい2つの技を決める。例:腕十字(A)→三角絞め(B)
  2. A は最後の形(出口)から始める。A の手順を最初からやらない
  3. A の出口から B の入口の形まで。ここだけを5回
  4. 通るようになったら、A の最後の2手から B の最初の2手まで広げる
  5. 最後に A→B を通しで1回。止まった所が、次の練習の最初
  6. 3つ目をつなげるときは、B→C のつなぎ目から同じ手順

このノートにある主なつなぎ目

つなぎ目切り替えの合図章
腕十字 → 三角絞め相手が腕を引いて姿勢を起こし、押してきた第一章 二→三
マウント十字絞め → バックテイク相手がエビで横を向いて逃げてきた第三章 八→第六章 二
アメリカーナ → 襟の輪っか → 腕十字相手が手首を守った第五章 二→三
キムラ → 輪っか → 腕十字キムラの手首が取れない第五章 四→五
サイドエスケープ → ハーフ → 潜り膝が入り、足を絡めた第四章 十→四
腰を切られた → フレーム → バック前腕が相手の脇腹に入った第五章 八→第四章 五
裸絞め → 襟絞め → ジッパー → ボウアンドアロー相手が顎を引いて守った第六章 三〜五
片側で決まらない → スイッチ → 反対側でもう一周ボウアンドアローまで守られた第六章 六
首を守る → かかとでフックを外す → もたれて横へ襟絞めが来た/フックが1本外れた第六章 七

なぜ効くか、どこまで言えるか

部品同士が強く依存する課題は、部品に分けるより全体で練習した方が効率がよい(Naylor と Briggs 1963)。柔術の連携は、前の技の出口がそのまま次の技の入口なので、依存が強い型にあたる。一方で全部を通しで回すと、第一節の容量を超える。つなぎ目練習はその間を取る方法で、依存している境目は切らずに残し、境目と関係のない前半と後半を削る。20研究のメタ分析は、この「課題の依存度で全体か部分かを決める」考え方をおおむね支持したが、研究数が少ないと断っている(Fontana ら 2009)。「つなぎ目だけを切り出す」やり方を柔術で直接試した研究はなく、上の原理から組み立てたもの。

04三、反応は1択から増やす

「相手がこう来たら、こう返す」を体が先に出すようにするには、相手の反応の種類を段階的に増やす。最初から何が来るか分からない状態で練習すると、形ができる前に混ぜることになり、どれも出ない。

4段のはしご

段相手役がすること自分がすること次の段へ進む目安
一 固定毎回同じ反応を、同じタイミングで出す(例:顎を引く)決まった返しを出す(例:襟絞めへ)見ずに5回続けて形が出る
二 2択2つの反応をランダムに出す(例:顎を引く/手で剥がす)。3回に1回は何もしない見てから選ぶ。何もされなければ待つ10回中8回、正しい方を選べる
三 抵抗つき2択に、力の強さの違いを混ぜる同じ。力で返さず、形まで行く相手が本気で守っても形まで行ける
四 制約付きスパー附録五 第一節の設定で、自由に逃げる状況を1つに絞ったまま、実戦の速さでその設定で3本中1本、狙った変化が起きる

合図の決め方と、反応の表

「顎が下がった」「肘が浮いた」のように、合図は相手の体に起きる変化で決める。合図の立て方(もし相手が○○したら、私は△△)は附録五 第六節、章ごとの「相手の反応→自分の技」の一覧は附録五 第四節にある。はしごの段一・段二で相手役にやってもらう反応は、この一覧から選ぶ。

なぜ効くか、どこまで言えるか

  • 選択肢が増えるほど反応時間はほぼ対数で伸びる(Hick 1952)。段一で選択肢を1つにすると反応は最短になり、形を作ることだけに集中できる
  • 同じ課題を固めて練習した群はその場の成績が良く、混ぜて練習した群は後日の保持と応用が良かった(Shea と Morgan 1979)。段一で固めてから段二で混ぜるのは、両方を取るため
  • ただし混ぜる効果は、実験室より実際のスポーツ場面で小さい(附録二 第四節)。段二に上がるのは、段一で形が出てから
  • 道場の「アンダーが入らなければオーバー」「上の動きは腰切り上か下だけ」は、選択肢を2つに絞る設計そのもの。段二の2択はここから選ぶとよい

05四、ひとりでやる練習

道場の外でできるのは4つ。頭の中の練習、つなぎ目のシャドー、動画で相手を読む練習、日を空けて思い出す練習。どれも短くていい。

1. 合図→返しのイメージ(毎晩3本)

目を閉じて「相手の顎が下がった→襟を上で持つ→手首を返す」を1本ずつ、実際の速さで再生する。自分の手足からではなく、相手役に起きる変化から始める。イメージ練習には中程度の効果があり、手順や判断を含む課題ほど大きい(Driskell ら 1994)。体の練習の代わりにはならず、上乗せになる。再生の仕方は附録二 第二節。

2. つなぎ目のシャドー(5回)

布団や畳の上で、第二節のつなぎ目だけを体で5回。A の出口の形を作ってから B の入口の形へ。技を最初から最後までやらない。

3. 動画を止めて、先を当てる(週1回・10分)

  1. 試合や解説動画を1本選ぶ。各章に埋め込んだ動画でよい
  2. 相手が反応した瞬間(腕を引いた、ブリッジした)で止める
  3. 「次に何をする?」を1秒で口に出す
  4. 再生して答え合わせ。外れたら、何を見落としたかを1行書く

レクリエーションのテニス選手が、映像と指導とフィードバックで相手の打球方向を予測する訓練をしたところ、実験室のテストでもコート上でも予測が上がった。訓練しなかった群と、偽の訓練をした群は上がらなかった(Williams ら 2002)。柔術で同じ効果が出るかは確かめられていない。

4. 日を空けて思い出す

翌日・3日後・1週間後に、ページを開かずに「相手が○○したら?」に答える。技名から問わず、相手の動きから問う。間隔を空けて思い出すと長く残る(Cepeda ら 2006、記憶研究のメタ分析)。日付の管理は附録六 復習カレンダー、睡眠の効果は附録二 第五節。

たとえで覚える

手順を長い文章で持たず、技ごとにたとえを1つ決める。「弓を引く(ボウアンドアロー)」「輪っかに閉じ込める(襟の輪っか)」「歯車を一つ噛ませる(腰切り)」。卓球の初心者で、手順を言葉で教わった群は、同時に別の作業をさせたり、ストレスをかけたりすると崩れた。たとえ1つで教わった群は崩れなかった(Liao と Masters 2001)。

06五、1週間に落とすと

新しいことを足すのではなく、今の練習の前後に短い時間を足す。合計で週40分ほど。

いつやること時間節
道場(技を習った日)新しい技は段一で固める。前回の技とのつなぎ目を5〜10本練習中二・三
道場(最後の10分)段二か、制約付きスパー10分三
帰宅後合図→返しのイメージ3本、つなぎ目のシャドー5回5分四
翌日・3日後・1週間後見ずに「相手が○○したら?」に答える各3分四
週1回動画を止めて先を当てる10分四
週1回パートナーに段二を頼む(1分×3本)5分三

限界と注意

  • 柔術そのものを対象にした研究はほとんどない。上の知見は、実験室の課題や他のスポーツ(ゴルフ・サッカー・テニス・卓球)から来ている。原理は通じるが、効果の大きさはそのまま当てはまらない
  • 考えずに出るようになるまでの回数は、技によって大きく違う。「何回やれば身につく」という数字は出せない
  • 固めすぎ(同じ技を1時間回す)も、混ぜすぎ(形ができる前に段二へ)も効率が落ちる。目安の表どおりに段を上げる
  • 練習相手に力を入れない。形は作るが、極めない

07参考文献

  1. Fitts P.M., Posner M.I. Human Performance. Brooks/Cole (1967).
  2. Cowan N. The magical number 4 in short-term memory: A reconsideration of mental storage capacity. Behavioral and Brain Sciences 24(1) (2001). DOI
  3. Sakai K., Kitaguchi K., Hikosaka O. Chunking during human visuomotor sequence learning. Experimental Brain Research 152 (2003) 229-242. DOI
  4. Naylor J.C., Briggs G.E. Effects of task complexity and task organization on the relative efficiency of part and whole training methods. Journal of Experimental Psychology 65 (1963) 217-224. DOI
  5. Fontana F.E., Mazzardo O., Furtado O., Gallagher J.D. Whole and part practice: A meta-analysis. Perceptual and Motor Skills 109 (2009) 517-530. DOI
  6. Hick W.E. On the rate of gain of information. Quarterly Journal of Experimental Psychology 4 (1952) 11-26. DOI
  7. Shea J.B., Morgan R.L. Contextual interference effects on the acquisition, retention, and transfer of a motor skill. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory 5 (1979) 179-187. DOI
  8. Beilock S.L., Carr T.H., MacMahon C., Starkes J.L. When paying attention becomes counterproductive: Impact of divided versus skill-focused attention on novice and experienced performance of sensorimotor skills. Journal of Experimental Psychology: Applied 8 (2002) 6-16. DOI
  9. Masters R.S.W. Knowledge, knerves and know-how: The role of explicit versus implicit knowledge in the breakdown of a complex motor skill under pressure. British Journal of Psychology 83 (1992) 343-358. DOI
  10. Liao C.M., Masters R.S.W. Analogy learning: A means to implicit motor learning. Journal of Sports Sciences 19 (2001) 307-319. DOI
  11. Mann D.T.Y., Williams A.M., Ward P., Janelle C.M. Perceptual-cognitive expertise in sport: A meta-analysis. Journal of Sport and Exercise Psychology 29 (2007) 457-478. DOI
  12. Williams A.M., Ward P., Knowles J.M., Smeeton N.J. Anticipation skill in a real-world task: Measurement, training, and transfer in tennis. Journal of Experimental Psychology: Applied 8 (2002) 259-270. DOI
  13. Driskell J.E., Copper C., Moran A. Does mental practice enhance performance? Journal of Applied Psychology 79 (1994) 481-492. DOI
  14. Cepeda N.J., Pashler H., Vul E., Wixted J.T., Rohrer D. Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin 132 (2006) 354-380. DOI