01先に結論
1つずつならできる技が、つなげた途端に止まる。相手が動いた瞬間に何も出ない。この2つは同じところから来ている。どの技もまだ「手順を頭で確かめながら動く」段階にあり、2つ目を足した時点で頭の容量を超える。直し方は3つ。技の全体ではなくつなぎ目だけを練習する。相手の反応を1択→2択→ランダムと段階的に増やす。家では「相手の合図→自分の返し」を頭の中で再生し、日を空けて思い出す。
効果の確からしさ
- 頭で同時に扱えるのは4つ前後
- 強 短期記憶の容量研究の総説(Cowan 2001)。手順3つの技を2つつなげると6つになり、あふれる
- 連続動作は塊にまとまり、境目で止まる
- 強(実験室) ボタン押しの連続課題で、練習するほど動作がいくつかの塊にまとまり、塊と塊の間に長い間が残った(Sakai ら 2003)。柔術での直接の研究はない
- 依存し合う動作は切らずに練習する
- 中 部品同士が強く依存する課題は、全体で練習した方が効率がよい(Naylor と Briggs 1963)。20研究のメタ分析もこの考え方をおおむね支持したが、研究数は少ない(Fontana ら 2009)
- 選択肢を減らすと反応が速い
- 強 選択肢の数が増えるほど反応時間はほぼ対数で伸びる(Hick 1952)。実験心理学で最も再現性の高い知見の一つ
- 固めてから混ぜる
- 中 固めて練習するとその場の出来が良く、混ぜて練習すると後日の保持と応用が良い(Shea と Morgan 1979)。実際のスポーツ場面では効果が小さくなる(附録二 第四節)
- 今は手順に注意を向けてよい
- 中 初心者は一歩ずつ手順に注意を向けた方が上手くでき、熟練者の得意な動きは同じことをすると崩れた(Beilock ら 2002)
- 手順を言葉で抱えすぎない
- 中 規則を言葉で多く持って覚えた人ほど、プレッシャー下で崩れた(Masters 1992)。たとえ(アナロジー)で覚えた人は崩れにくかった(Liao と Masters 2001)
- 相手の動きを読む力
- 強(差)/中(訓練) 熟練者は相手の手がかりを早く正確に拾う(Mann ら 2007、42研究のメタ分析)。映像と指導で予測を訓練すると、実験室でもコートでも予測が上がった(Williams ら 2002、テニス)
- 頭の中での練習
- 中 イメージ練習には中程度の効果があり、手順や判断を含む課題ほど大きい(Driskell ら 1994)。体の練習の代わりではなく上乗せ
02一、なぜつなげると崩れるのか
技が下手だから崩れるのではない。1つの技を動かすだけで頭がいっぱいになっていて、2つ目を載せる場所がない。技と技の境目は、まだ一度も練習されていない。
技はまだ「考えながら動く段階」にある
運動の習得は3段階で進む(Fitts と Posner 1967)。今の技の多くは一段目か二段目にある。段階によって、やるべき練習が違う。
| 段階 | 頭の状態 | 柔術では | やる練習 |
|---|---|---|---|
| 認知段階 | 手順を1つずつ言葉で確かめながら動く。間違いが多い | 「手首を取って、胸を合わせて…」と唱えながら動く | 1つの技を形が出るまで固める |
| 連合段階 | 手順がまとまり始め、間違いが減る | 3語の合図だけで最後まで通せる | つなぎ目を練習する(第二節) |
| 自動段階 | 考えなくても出る。注意を他へ回せる | 相手を見ながら、技が勝手に出る | 相手の反応を混ぜる(第三節) |
頭で同時に扱えるのは4つ前後
考えながら覚えておける量(作業記憶)は、およそ4つ(Cowan 2001)。認知段階の技は、それぞれが手順3〜4個分の場所を取る。2つつなげれば6〜8個になり、そこで止まる。附録二で技を3語の合図にまとめたのは、1つの技が取る場所を減らすため。
つなぎ目は、別の技として練習がいる
連続した動作は、練習するうちに脳の中でいくつかの塊にまとまる。塊の中は速くなるが、塊と塊の間には長い間が残る。練習した順番を塊ごと入れ替えると速く正確に動けたのに、塊を壊すように切り分けると遅く不正確になった(Sakai ら 2003)。A と B を別々に練習しても、「A の終わり→B の始まり」はどちらの塊にも入っていない。止まるのはそこ。
道場の言葉とのつながり
- 「考えすぎ」「頭の中でこねない」。手順を言葉で多く抱えるほど、緊張したときに崩れる(Masters 1992)
- ただし今は、手順に注意を向けてよい段階。初心者は一歩ずつ確かめた方が上手くでき、崩れるのは熟練者の得意な動きの方だった(Beilock ら 2002)。確かめるのは3語までにする
- 「弓を引く」「輪っか」「歯車」のようなたとえで覚える。たとえで覚えた人は、別の作業を同時にしても、ストレスをかけても崩れにくかった(Liao と Masters 2001)
- 稽古の心得の「一挙動(動作を分割しない)」は、第二節の「つなぎ目を切らない」と同じ方向
03二、つなぎ目だけを練習する
組み合わせを最初から最後まで何周も回すより、「A の最後の形→B の最初の形」だけを切り出して繰り返す。つながったら1手ずつ広げる。
やり方
- つなげたい2つの技を決める。例:腕十字(A)→三角絞め(B)
- A は最後の形(出口)から始める。A の手順を最初からやらない
- A の出口から B の入口の形まで。ここだけを5回
- 通るようになったら、A の最後の2手から B の最初の2手まで広げる
- 最後に A→B を通しで1回。止まった所が、次の練習の最初
- 3つ目をつなげるときは、B→C のつなぎ目から同じ手順
このノートにある主なつなぎ目
| つなぎ目 | 切り替えの合図 | 章 |
|---|---|---|
| 腕十字 → 三角絞め | 相手が腕を引いて姿勢を起こし、押してきた | 第一章 二→三 |
| マウント十字絞め → バックテイク | 相手がエビで横を向いて逃げてきた | 第三章 八→第六章 二 |
| アメリカーナ → 襟の輪っか → 腕十字 | 相手が手首を守った | 第五章 二→三 |
| キムラ → 輪っか → 腕十字 | キムラの手首が取れない | 第五章 四→五 |
| サイドエスケープ → ハーフ → 潜り | 膝が入り、足を絡めた | 第四章 十→四 |
| 腰を切られた → フレーム → バック | 前腕が相手の脇腹に入った | 第五章 八→第四章 五 |
| 裸絞め → 襟絞め → ジッパー → ボウアンドアロー | 相手が顎を引いて守った | 第六章 三〜五 |
| 片側で決まらない → スイッチ → 反対側でもう一周 | ボウアンドアローまで守られた | 第六章 六 |
| 首を守る → かかとでフックを外す → もたれて横へ | 襟絞めが来た/フックが1本外れた | 第六章 七 |
なぜ効くか、どこまで言えるか
部品同士が強く依存する課題は、部品に分けるより全体で練習した方が効率がよい(Naylor と Briggs 1963)。柔術の連携は、前の技の出口がそのまま次の技の入口なので、依存が強い型にあたる。一方で全部を通しで回すと、第一節の容量を超える。つなぎ目練習はその間を取る方法で、依存している境目は切らずに残し、境目と関係のない前半と後半を削る。20研究のメタ分析は、この「課題の依存度で全体か部分かを決める」考え方をおおむね支持したが、研究数が少ないと断っている(Fontana ら 2009)。「つなぎ目だけを切り出す」やり方を柔術で直接試した研究はなく、上の原理から組み立てたもの。
04三、反応は1択から増やす
「相手がこう来たら、こう返す」を体が先に出すようにするには、相手の反応の種類を段階的に増やす。最初から何が来るか分からない状態で練習すると、形ができる前に混ぜることになり、どれも出ない。
4段のはしご
| 段 | 相手役がすること | 自分がすること | 次の段へ進む目安 |
|---|---|---|---|
| 一 固定 | 毎回同じ反応を、同じタイミングで出す(例:顎を引く) | 決まった返しを出す(例:襟絞めへ) | 見ずに5回続けて形が出る |
| 二 2択 | 2つの反応をランダムに出す(例:顎を引く/手で剥がす)。3回に1回は何もしない | 見てから選ぶ。何もされなければ待つ | 10回中8回、正しい方を選べる |
| 三 抵抗つき | 2択に、力の強さの違いを混ぜる | 同じ。力で返さず、形まで行く | 相手が本気で守っても形まで行ける |
| 四 制約付きスパー | 附録五 第一節の設定で、自由に逃げる | 状況を1つに絞ったまま、実戦の速さで | その設定で3本中1本、狙った変化が起きる |
合図の決め方と、反応の表
「顎が下がった」「肘が浮いた」のように、合図は相手の体に起きる変化で決める。合図の立て方(もし相手が○○したら、私は△△)は附録五 第六節、章ごとの「相手の反応→自分の技」の一覧は附録五 第四節にある。はしごの段一・段二で相手役にやってもらう反応は、この一覧から選ぶ。
なぜ効くか、どこまで言えるか
- 選択肢が増えるほど反応時間はほぼ対数で伸びる(Hick 1952)。段一で選択肢を1つにすると反応は最短になり、形を作ることだけに集中できる
- 同じ課題を固めて練習した群はその場の成績が良く、混ぜて練習した群は後日の保持と応用が良かった(Shea と Morgan 1979)。段一で固めてから段二で混ぜるのは、両方を取るため
- ただし混ぜる効果は、実験室より実際のスポーツ場面で小さい(附録二 第四節)。段二に上がるのは、段一で形が出てから
- 道場の「アンダーが入らなければオーバー」「上の動きは腰切り上か下だけ」は、選択肢を2つに絞る設計そのもの。段二の2択はここから選ぶとよい
05四、ひとりでやる練習
道場の外でできるのは4つ。頭の中の練習、つなぎ目のシャドー、動画で相手を読む練習、日を空けて思い出す練習。どれも短くていい。
1. 合図→返しのイメージ(毎晩3本)
目を閉じて「相手の顎が下がった→襟を上で持つ→手首を返す」を1本ずつ、実際の速さで再生する。自分の手足からではなく、相手役に起きる変化から始める。イメージ練習には中程度の効果があり、手順や判断を含む課題ほど大きい(Driskell ら 1994)。体の練習の代わりにはならず、上乗せになる。再生の仕方は附録二 第二節。
2. つなぎ目のシャドー(5回)
布団や畳の上で、第二節のつなぎ目だけを体で5回。A の出口の形を作ってから B の入口の形へ。技を最初から最後までやらない。
3. 動画を止めて、先を当てる(週1回・10分)
- 試合や解説動画を1本選ぶ。各章に埋め込んだ動画でよい
- 相手が反応した瞬間(腕を引いた、ブリッジした)で止める
- 「次に何をする?」を1秒で口に出す
- 再生して答え合わせ。外れたら、何を見落としたかを1行書く
レクリエーションのテニス選手が、映像と指導とフィードバックで相手の打球方向を予測する訓練をしたところ、実験室のテストでもコート上でも予測が上がった。訓練しなかった群と、偽の訓練をした群は上がらなかった(Williams ら 2002)。柔術で同じ効果が出るかは確かめられていない。
4. 日を空けて思い出す
翌日・3日後・1週間後に、ページを開かずに「相手が○○したら?」に答える。技名から問わず、相手の動きから問う。間隔を空けて思い出すと長く残る(Cepeda ら 2006、記憶研究のメタ分析)。日付の管理は附録六 復習カレンダー、睡眠の効果は附録二 第五節。
たとえで覚える
手順を長い文章で持たず、技ごとにたとえを1つ決める。「弓を引く(ボウアンドアロー)」「輪っかに閉じ込める(襟の輪っか)」「歯車を一つ噛ませる(腰切り)」。卓球の初心者で、手順を言葉で教わった群は、同時に別の作業をさせたり、ストレスをかけたりすると崩れた。たとえ1つで教わった群は崩れなかった(Liao と Masters 2001)。
06五、1週間に落とすと
新しいことを足すのではなく、今の練習の前後に短い時間を足す。合計で週40分ほど。
| いつ | やること | 時間 | 節 |
|---|---|---|---|
| 道場(技を習った日) | 新しい技は段一で固める。前回の技とのつなぎ目を5〜10本 | 練習中 | 二・三 |
| 道場(最後の10分) | 段二か、制約付きスパー | 10分 | 三 |
| 帰宅後 | 合図→返しのイメージ3本、つなぎ目のシャドー5回 | 5分 | 四 |
| 翌日・3日後・1週間後 | 見ずに「相手が○○したら?」に答える | 各3分 | 四 |
| 週1回 | 動画を止めて先を当てる | 10分 | 四 |
| 週1回 | パートナーに段二を頼む(1分×3本) | 5分 | 三 |
限界と注意
- 柔術そのものを対象にした研究はほとんどない。上の知見は、実験室の課題や他のスポーツ(ゴルフ・サッカー・テニス・卓球)から来ている。原理は通じるが、効果の大きさはそのまま当てはまらない
- 考えずに出るようになるまでの回数は、技によって大きく違う。「何回やれば身につく」という数字は出せない
- 固めすぎ(同じ技を1時間回す)も、混ぜすぎ(形ができる前に段二へ)も効率が落ちる。目安の表どおりに段を上げる
- 練習相手に力を入れない。形は作るが、極めない
07参考文献
- Fitts P.M., Posner M.I. Human Performance. Brooks/Cole (1967).
- Cowan N. The magical number 4 in short-term memory: A reconsideration of mental storage capacity. Behavioral and Brain Sciences 24(1) (2001). DOI
- Sakai K., Kitaguchi K., Hikosaka O. Chunking during human visuomotor sequence learning. Experimental Brain Research 152 (2003) 229-242. DOI
- Naylor J.C., Briggs G.E. Effects of task complexity and task organization on the relative efficiency of part and whole training methods. Journal of Experimental Psychology 65 (1963) 217-224. DOI
- Fontana F.E., Mazzardo O., Furtado O., Gallagher J.D. Whole and part practice: A meta-analysis. Perceptual and Motor Skills 109 (2009) 517-530. DOI
- Hick W.E. On the rate of gain of information. Quarterly Journal of Experimental Psychology 4 (1952) 11-26. DOI
- Shea J.B., Morgan R.L. Contextual interference effects on the acquisition, retention, and transfer of a motor skill. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory 5 (1979) 179-187. DOI
- Beilock S.L., Carr T.H., MacMahon C., Starkes J.L. When paying attention becomes counterproductive: Impact of divided versus skill-focused attention on novice and experienced performance of sensorimotor skills. Journal of Experimental Psychology: Applied 8 (2002) 6-16. DOI
- Masters R.S.W. Knowledge, knerves and know-how: The role of explicit versus implicit knowledge in the breakdown of a complex motor skill under pressure. British Journal of Psychology 83 (1992) 343-358. DOI
- Liao C.M., Masters R.S.W. Analogy learning: A means to implicit motor learning. Journal of Sports Sciences 19 (2001) 307-319. DOI
- Mann D.T.Y., Williams A.M., Ward P., Janelle C.M. Perceptual-cognitive expertise in sport: A meta-analysis. Journal of Sport and Exercise Psychology 29 (2007) 457-478. DOI
- Williams A.M., Ward P., Knowles J.M., Smeeton N.J. Anticipation skill in a real-world task: Measurement, training, and transfer in tennis. Journal of Experimental Psychology: Applied 8 (2002) 259-270. DOI
- Driskell J.E., Copper C., Moran A. Does mental practice enhance performance? Journal of Applied Psychology 79 (1994) 481-492. DOI
- Cepeda N.J., Pashler H., Vul E., Wixted J.T., Rohrer D. Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin 132 (2006) 354-380. DOI